鹿とにぼしと地縛霊(833文字)
『消せない輪じみ』
国道九号線、道沿いにある一軒家に住む者が、恐怖で涙を流したらしい。
草木も眠る丑三つ時、実家のインターホンが鳴り響いた。
何度も何度も鳴り止まない。月明かりで照らされている室内に、不可解なうめき声。身体は凍りつく。
私は殺される。
実家のインターホンが、ここ数年の間に効果音が変わっていた。
聴きなれた某コンビニの入店音。
なんとも恐怖感のない音である。
この家は24時間営業じゃない。
確かにこの家には毎日必ず人が訪れる。
鬱陶しいほどに人が来る。
これは田舎のしきたりでもある。
しかし、まともな生活を送っているサラリーマンは
19時以降には家でご飯を食べて、
22時には寝ているのではないだろうか。
午前2時に尿意を催すかもしれないが、
まさか私の家でおしっこがしたいとでも言うのだろうか。
インターホンは午前6時までなり続ける。
起床してきたお婆ちゃんがインターホンに気付き、急いで玄関へ向かう。
午前6時の来客に誰も不思議に思わなかった。
何故なら今日は、神社で行われる祭りの集金日だからだ。
玄関の扉を開けると、そこには何かに布をかぶせたような白い塊があった。小刻みに震えるその塊は、すぐにそれが人だとは分からない程、血の気のない肌をしていたらしい。
そして塊の足元に広がる、くっきりと黄色い輪じみ。
老婆はずっとずっと、おしっこをしたかったようだ。
白い塊は、今日もまたおしっこが出来なかった。
福知山市の田舎を地縛霊となり さ迷い続けるのだ・・・・・。
毎晩毎晩、ファミリーマートと勘違いして入ってこないで。
『自由でないこと』
裏庭の竹林には、鹿が荒ぶっていた。このままここで飼おうと思うがどうだろうか。
少し離れた場所には鹿のフンが10つぶ程丁寧にこかれていた。礼儀正しいので家の中で飼おう。
私の家の中で、暖かくして美味しいご飯も食べて、ほかほかお風呂に入って、なに不自由なく幸せに生活しよう。
『アルツハイマー』